AGA注入治療で用いる薬剤の作用機序
ここでは、AGA注入治療の代表的な薬剤や成分がどのように作用するのか、少し専門的な視点から解説します。まず、成長因子(グロースファクター)を用いた注入療法は、近年特に注目されています。成長因子とは、体内で特定の細胞の増殖や分化を促進するタンパク質の総称です。AGA治療においては、KGF(ケラチノサイト成長因子)、IGF-1(インスリン様成長因子1)、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)、bFGF(塩基性線維芽細胞成長因子)などがよく用いられます。例えば、KGFは毛母細胞の増殖を直接的に刺激し、毛髪の成長期を延長させる働きがあります。IGF-1は毛母細胞の活性化や毛包の維持に関与し、VEGFやbFGFは毛包周囲の血管新生を促し、毛根への栄養供給を改善する効果が期待されます。これらの成長因子を複数組み合わせることで、多角的なアプローチによる相乗効果を狙うのが一般的です。次に、ミノキシジルを直接注入する方法もあります。ミノキシジルはもともと血管拡張薬として開発されましたが、発毛効果があることが分かり、外用薬として広く使用されています。その作用機序は完全には解明されていませんが、毛乳頭細胞を活性化させたり、毛母細胞のアポトーシス(細胞死)を抑制したり、血流を改善したりすることで発毛を促すと考えられています。これを直接頭皮に注入することで、外用薬よりも高濃度で効率的に毛根へ届けることが可能になります。また、フィナステリドやデュタステリドといった5αリダクターゼ阻害薬の成分を含む薬剤を注入する治療法も存在します。これらの薬剤は、AGAの主な原因物質であるDHT(ジヒドロテストステロン)の生成を抑制することで、薄毛の進行を遅らせる効果があります。内服薬として用いられることが多いですが、注入によって局所的に作用させることで、全身性の副作用のリスクを低減しつつ効果を得ようという試みです。さらに、自身の血液から抽出したPRP(多血小板血漿)を用いる治療も、再生医療の一環として行われています。血小板には多くの成長因子が含まれており、これを濃縮して頭皮に注入することで、毛包の再生や活性化を促すと考えられています。これらの薬剤や成分は、単独で用いられることもあれば、患者さんの状態に応じて組み合わせて使用されることもあります。