ブリーチでなぜはげると言われるのか科学的考察
「ブリーチをすると将来はげる」という言葉を耳にすることがありますが、この背景にはどのような科学的、あるいは医学的な根拠、もしくは誤解があるのでしょうか。少し掘り下げて考察してみましょう。まず、AGA(男性型脱毛症)やFAGA(女性男性型脱毛症)といった、いわゆる「はげる」状態の多くは、遺伝的素因とホルモンの影響が主な原因です。男性ホルモンの一種であるテストステロンが、5αリダクターゼという酵素によってDHT(ジヒドロテストステロン)に変換され、このDHTが毛乳頭細胞の受容体に結合することで、毛母細胞の増殖を抑制し、毛髪の成長期を短縮させ、結果として毛髪が細く短くなり、薄毛が進行します。ブリーチ剤の主成分である過酸化水素や過硫酸塩、アルカリ剤などが、この遺伝的・ホルモン的なメカニズムに直接介入してAGAを誘発するという直接的な科学的証拠は、現時点では確立されていません。ではなぜ、「ブリーチではげる」と言われるのでしょうか。考えられる要因の一つは、ブリーチ剤による頭皮への化学的刺激です。ブリーチ剤は強力な酸化剤であり、アルカリ性も高いため、頭皮に付着すると接触皮膚炎や化学熱傷(ケミカルバーン)を引き起こす可能性があります。頭皮に炎症が生じると、毛包周囲の環境が悪化し、毛根がダメージを受けます。これにより、一時的に毛髪が抜け落ちる「休止期脱毛」が起こったり、炎症が慢性化することで毛包が萎縮し、恒久的な脱毛に至る可能性もゼロではありません。特に、不適切な施術や高頻度のブリーチは、このリスクを高めます。もう一つの要因は、ブリーチによる毛髪自体のダメージです。ブリーチは毛髪のメラニン色素を分解する過程で、毛髪の主成分であるケラチンタンパク質を変性させ、キューティクルを損傷させます。これにより、毛髪は著しく強度が低下し、細く、もろく、切れやすくなります(いわゆる「切れ毛」)。多数の切れ毛が発生すると、全体の毛量が減少したように見え、これが「薄くなった」「はげた」という印象につながることがあります。これはAGAとは異なるメカニズムですが、見た目の印象としては同様に捉えられる可能性があります。さらに、ブリーチ後の毛髪は水分保持能力が低下し、乾燥しやすくなるため、パサつきや広がりの原因となり、これもまた髪全体のボリュームダウン感に寄与します。