鏡に映る広くなった地肌、指の間をすり抜けていく抜け毛。AGA(男性型脱毛症)の進行を目の当たりにした時、多くの人が抱くのが「もう手遅れかもしれない」という絶望的な感情です。しかし、その「手遅れ」という言葉が具体的に何を指すのか、正しく理解している人は少ないかもしれません。医学的な観点から言えば、AGAにおける本当の意味での「手遅れ」とは、髪の毛を作り出す工場である「毛母細胞」が完全にその活動を停止し、死滅してしまった状態を指します。毛母細胞がなくなってしまった毛穴からは、残念ながらどのような治療薬を使っても、再び髪の毛が生えてくることはありません。見た目がツルツルになっていても、毛穴そのものが閉じてしまっている状態です。しかし、ここで希望を捨てるのはまだ早すぎます。なぜなら、あなたが「もう手遅れだ」と感じている頭皮の状態でも、毛母細胞が完全に活動を停止しているケースは、実はそれほど多くはないからです。一見、髪が全くないように見える部分でも、マイクロスコープなどで拡大してみると、細く短い「産毛」が残っていることがよくあります。この産毛の存在こそが、毛母細胞がまだ生きている、活動を休止しているだけだという何よりの証拠なのです。AGA治療の目的は、この休火山のような状態の毛母細胞を再び活性化させ、か細い産毛を、太く長い健康な髪へと育て直すことにあります。AGAは進行性の脱毛症であるため、放置すればいずれ本当の手遅れに至る可能性はあります。しかし、裏を返せば、少しでも早く適切な治療を開始すれば、その進行を食い止め、改善させることは十分に可能なのです。「もうダメだ」と一人で結論を下す前に、まずは専門のクリニックで、あなたの頭皮が今どのような状態にあるのかを正確に診断してもらうこと。それが、絶望を希望に変えるための、最も重要で賢明な第一歩となります。