突然髪が抜けた日円形脱毛症との闘い
それは、ある朝、何気なく髪をかき上げた時に訪れた。指先に感じた、今まで経験したことのないツルツルとした感触。恐る恐る鏡で確認すると、側頭部に五百円玉ほどの大きさの、地肌が完全に見える円形のはげができていた。血の気が引くとは、まさにこのことだった。すぐにインターネットで調べると「円形脱毛症」という言葉が目に飛び込んできた。ストレスが原因だと書かれていることが多かったが、当時の私には特に大きなストレスの自覚はなく、なぜ自分が、という思いで頭がいっぱいになった。皮膚科を受診すると、医師は「典型的な単発型の円形脱毛症ですね」と淡々と告げた。原因は、自己免疫疾患の一種で、本来なら体を守るはずの免疫細胞が、何らかの理由で自分の毛根を異物と間違えて攻撃してしまうことにあると説明された。治療として、ステロイドの塗り薬が処方された。毎日、患部に薬を塗るたびに、鏡で脱毛部分を確認するのが苦痛だった。髪で隠せる場所だったのが唯一の救いだったが、いつ他の場所にも広がるかという恐怖と常に隣り合わせだった。友人との食事や美容院に行くことさえ億劫になり、少しずつ内にこもるようになっていった。しかし、治療を始めて三ヶ月ほど経った頃、脱毛部分にうっすらと白く細い産毛が生えているのを見つけた。それは暗闇の中に差し込んだ一筋の光のようだった。そこから半年、一年とかけて、産毛は徐々に黒く太い毛に成長し、今ではどこに脱毛があったのか分からないほどに回復した。この経験を通じて、私は病気と向き合うことの難しさと、体の正直さを学んだ。そして、悩みを一人で抱え込まず、専門医を頼ることの重要性を痛感した。